現在Talkingまたは他教室に通われている生徒さんや、音楽教室に興味をお持ちの皆さんに向けて、自分がこれまでの講師生活において、経験したことや感じたこと、楽器指導に対する考え方など、どうでもいい話から少し固い話までざっくばらんに自分の思考を書いています。
近年、オンラインセミナーとかオンライン会議とか、オンラインでコミュケーションを取ることも一般的になってきました。
移動時間やコストの面から考えて便利な部分もありますが、一方で意思が伝わりづらかったり、親しくなりづらいなどのネガティブな一面もあるように感じます。
では、楽器のオンラインレッスンってどうなんでしょうか。
今回はオンラインレッスンに対する私の考えをお話しします。
例えば、語学レッスンだったり、何かの知識を学ぶセミナーだったり、専門家に相談して助言してもらうような内容であれば、オンラインによるコミュニケーションでも成立するし、対価を支払う価値はありそうです。
しかし、楽器の指導となるとまるで話は違ってきます。
結論を先に言いますと、オンラインレッスンを受けてメリットを得られるのは、そこそこの上級者だけです。(最低でも中級者以上)
それも対面でのレッスンと同等のメリットを得られるはずもなく、「無いよりはいい」という程度ではないでしょうか。
ましてや初心者や初級者ともなると、オンラインレッスンを受講する価値が何処にあるのか、甚だ疑問です。
なぜ初級者(中級者以下)の人に、オンラインレッスンが適さないのかお話します。
知ってる人は多いと思いますが、オンラインでの会話には「遅延(ちえん)」があります。
遅延というのは、自分が発した声が相手に伝わるのに少しの遅れがあることです。
仮に遅延が1秒だとすると、自分が言葉を発した1秒後に相手に伝わり、相手がその言葉に対してリアクションすると、その後そのリアクションが自分に伝わるのは更に1秒後です。(片道1秒、往復で2秒)
勘のいい人はお解りだと思いますが、オンラインではアンサンブルで演奏することが出来ないわけです。
つまり、先生と生徒が一緒に合奏できないんですよ。
先生から楽器を習うことの最大のメリットは、先生とのアンサンブルにあると言ってもいいでしょう。
上手な人とのアンサンブルなしに、どうやって楽器の楽しさを知るのですか?
特に楽器初級者にとって、先生と合奏できないレッスンなんて、本来の価値の大半を失っているように私は思います。
予め先生が自身の演奏を録音しておき、その音源を生徒にメールで送り、生徒はその音源に合わせて弾くという方法も可能ではありますが、テンポやサイズを生徒のレベルに合わせて柔軟に変えられないので、指導するという場においてはあまり現実的ではありません。
もし将来テクノロジーの進化によって、完全に遅延を無くせたとしても、音量の問題が残ります。
自分の端末の調整次第で音量は変わってしまうので、相手の弾いている音量や音色は不確かです。
同じ空間での演奏でない以上、本当の意味でアンサンブルが成立しているわけではありませんから。
これは実際にオンラインレッスンを受講した経験のある人から聞いた話ですが、先生が演奏している様子を画面越しに見た場合、映像と音声がほんの少しズレて映るそうです。
なので、先生の模範演奏を画面越しに見ても不自然に映り、あまり参考にならないようです。
私の予想では、おそらく音声が先に届き、コンマ数秒遅れて画像が届くのではないかと思います。
先生がカメラに向かってギター(ウクレレ)を弾いたとして、生徒の端末には音が聞こえた後に、少しズレて先生の手が動くという状態です。
逆も然りで、生徒さんの演奏も同様に、手の動きと音はズレて先生の端末に届きます。
先生はその動きと音がズレた映像(生徒の演奏)を見て、生徒の問題点を見つけ出し、正しい弾き方を画面越しに説明しなければなりません。
超能力でもない限り無理です。
これは理解するのが難しいかもしれませんが、ギターはピックの角度や振り抜く速さ、弦に対する指のかかり方など、力加減のわずかな違いで音色は変わってしまいます。(ウクレレも同じ)
オンラインでは、発信側のマイクと受信側のスピーカー次第で当然音が変わるので、ピッキングの違いによる音の違いなど、相手に正確に伝えられるはずがありません。
ギター(ウクレレ)を演奏する上で最も重要と言える、ピッキングの正しい技術の指導がオンラインでは不可能なのです。
生徒は先生の音を直に聴き、先生は生徒の音を直に聴いて指導しなければ、絶対に伝えられるものではありません。
ちゃんとした指導をするには、互いの音を直に聴いて感じ取るしかないのです。
時には相手の指に触れる必要さえあります。
私は対面型のマンツーマンレッスンでも、ピッキングによる音の違いを上手く伝えるのが難しいと感じています。
繊細な指の力加減や感触を相手に伝えるのだから、難しいに決まっているのですが、それをオンラインという環境でどう伝えればいいのでしょうか。
オンラインレッスンは無理があり過ぎて、ツッコミどころ満載です。
私は「ギター(ウクレレ)のオンラインレッスン」というワードを初めて耳にした時、心の中で笑ってしまいました。
そんなもの、成立するわけがない。
毎週のように顔を合わせて個室の中で二人きりという環境で、何年にも渡って指導している生徒さんでさえ、私が伝えたいことの半分も伝わらなかった、なんてことも多々あるんです。
先生と生徒がパソコンやスマホの画面を通して、一体どれだけのことが伝えられるか。
前述しましたが、オンラインレッスンを受講して対価に見合っただけのメリットがあるのは、中級者以上の人だけだと思います。
自分の知りたいことを具体的に質問できて、その質問に対する先生の回答を理解することできて、そしてそのアドバイスを参考に自身で練習を進めることができるレベルの人であれば、多少の効果は得られるでしょう。
ですが演奏の技術を教わるというより、あくまで知識を教わるだけの機会と捉えておいた方がいいと思います。
基礎を身につけなければならない初心者にとって、オンラインレッスンという選択肢などあり得ない話です。
“楽器のオンラインレッスン” なんてことを考え付く人って、おそらく対面で初心者(初級者)に指導した経験が全くないか、はなから初級者は度外視で、上級者限定で指導している先生だと思います。
あるいは、「利益さえ出せればそれでいい」という、大手のスクールによくある利益主義からくる発想としか思えないですね。
例えばコロナ禍の最中で、人と人が接触することができないという状況下で、それでも「何かできないか?」という苦し紛れに始めた試みなら、まだ理解できなくもないですが、「ただ便利だから」「気軽に始められるから」という理由でオンラインレッスンの受講を検討している初級者さんは、絶対にやめておいた方がいいです。
通える距離にギター(ウクレレ)教室がないという初心者さんが、どうしてもギター(ウクレレ)を習得したいのであれば、信頼できる先生を探して、その教室の近くに引っ越すことを考えましょう。
仕事があるから引っ越せない?
だったら仕事も変えて下さい。
世の中には、サーフィンがやりたいという理由で、仕事を変えて海の近くで暮らしている人なんていくらでもいます。
私の知人には、スノーボードをやるために大阪から長野県に引っ越して行った人がいました。
楽器を習うためだけに引っ越して転職までするなんてと思うかもしれませんが、オンラインで習うより遥かにいい人生になると私は思います。
西沢恭輔