ギター・ウクレレ教室 Talking

奈良県桜井市のギター教室

 

コラム

現在Talkingまたは他教室に通われている生徒さんや、音楽教室に興味をお持ちの皆さんに向けて、自分がこれまでの講師生活において、経験したことや感じたこと、楽器指導に対する考え方など、どうでもいい話から少し固い話までざっくばらんに自分の思考を書いています。


曲を弾く目的は二通り

あなたはこれまでに曲を何曲くらい弾いたことがあるでしょうか。
そして、その目的は何でしょうか。

今回は、曲を弾く目的とその選び方についてのお話です。
弾きたい曲が上手く弾けない、練習曲の選び方が解らないという人はよければ参考にしてみて下さい。

私は指導者なので、生徒さんに指導する目的で曲を弾くことが当然ありますが、今回はそこは省いて、あくまで趣味としてギター(ウクレレ)を弾いている人たちと同じ立場でお話しします。

私はこれまでに沢山の曲を弾いてきました。

音楽学校で習った課題曲だったり、自身のライブ活動で弾いた曲だったり、友人とセッションした曲だったり、一人で練習した曲だったり、その曲を弾くきっかけは様々ですが、私がギターやウクレレで曲を弾く目的は次の2つです。

  1. 練習のために弾く
  2. 本番として弾く

それぞれを解説します。

1.『練習のために弾く』とは、自身の演奏力を上げるための練習材料に曲を使うということです。

曲を弾くことで自身の演奏力を上げることが目的なので、あくまで曲は“練習材料”であって、その曲を弾くと楽しいからという理由で弾くわけではありません。

言い換えると、自身の演奏力が上がらない曲を弾いていても、それは練習になっていないことになります。

練習曲に何を選ぶかは、自分が今習得すべき内容に教材として適してるかどうかで判断します。何を学ぶかによって、適切な教材(練習曲)が変わるからです。

「〇〇なプレイを習得したいんだけど、何かいい練習曲はないかな?」と、練習に使えそうな曲を探します。

ここで重要なことは、「自分が何が苦手なのか」が理解できていることです。

自分の理想のプレイと現状を比べて、何が足りていないかが解らなければ、適切な教材(練習曲)を探し出せるわけがありません。

私は以前、習っていた先生からこう言われたことがあります。
「得意なことは放っておいても伸びて行くけど、苦手なことは自ら意識的に練習しないと克服できないよ」。

当時の私にはとても学びになる助言でした。

だって先生がそう言うってことは、先生もそうしているってことですからね。

好きな曲や、弾いていて楽しい曲だけを弾いていると、得意なことは特に意識しなくても進歩するんですが、苦手なことを克服することはできないのです。

2.『本番として弾く』とは、練習ではなく自身の音楽表現のために弾くことです。

本番というと、ライブやレコーディングのように他人に聴かせる目的で弾くことを想像するかもしれませんが、そうとは限りません。

他人に聴かせるか聴かせないかは関係なく、自分が弾きたい曲を、自由に、自分が弾きたいように弾くことが、演奏者にとっての“本番”なのです。

例えば、バンドでの演奏だったり誰かとセッションする時は、自分たちが演奏する曲を「こんな感じに弾けば良い演奏になりそうかな」と、自分なりに考えて演奏します。

一人で演奏する場合も同じように、自分が弾きたい曲を「今日はこんな感じに表現してみようかな」と、自分の思うままにギター(ウクレレ)を演奏します。

好きな曲を好きなように演奏する、これが音楽の醍醐味です。

楽器を弾く者にとって、これが本来の目的であって、日々の練習はこのためにあるはずです。

ここで重要なことは、「自分に何が出来るか」が理解できていることです。

当たり前の話ですが、曲を演奏するにあたって、今の自分に出来ないプレイはどうやったって出来ないはずです。

例えば、ストレートとカーブという2種類の球種しか投げられないピッチャーが、試合でいきなりフォークボールを投げるのは不可能ですよね。

もし試合でフォークボールを投げるのなら、事前に充分な練習を積んでマスターしておかなければならないはずです。事前に練習していなかったプレイが、ぶっつけ本番で上手く行くわけがありません。

それと同じように私たちギタリスト(ウクレリスト)は、本番で曲を演奏する場合、これまでに自分が身に付けてきた演奏力で曲を表現するわけですから、「さぁ今からこの曲を弾いてみよう」という場面になって、これまでに練習してこなかった奏法で曲を表現することは不可能なのです。

今の自分に持ち合わせている技術で、「何とかこの曲を表現してみよう」と考えるしかありません。

私は常に、自分が弾きたい曲を自分の思い通りに表現できることを目指して練習しています。

そのためには様々なアプローチによる練習法を学ぶ必要があるわけですが、その練習法の一つに“曲を用いた練習”があるのです。

簡単に言うと、こうです。

「自分の目標は、本番で楽曲Aを思い通りに表現できるようになることなんだけど、今の自分にはまだそこまでの演奏力がないので、教材に適した楽曲Bや楽曲Cを練習材料にして演奏力を上げて行こう」ってことです。

初級者の人は特に、「好きな曲だから、弾いていて楽しいから」という理由で練習曲を選ぶ傾向がありますが、本来それは矛盾した発想です。

練習は学ぶことが目的で、本番は楽しむことが目的です。

「好きだから、楽しいから」という理由で曲を弾くのは、練習ではなく“本番”に対する考え方です。

練習というのは、「苦手なことを克服する、出来ないことを出来るようにする」という考えで取り組むものです。

私たちギタリスト(ウクレリスト)は、常に自身にとっての“本番”が何かが明確でなければなりません。

ライブハウスのステージも、友だちとスタジオでセッションするのも、発表会で弾くのも、結婚式の披露宴で弾くのも、職場の忘年会で弾くのも、SNSで配信するための演奏動画の撮影も、友だちが家に遊びに来た時に演奏を聴かせるのも、ただ一人で好きな曲を弾いてストレスを発散するのも、これらは全てあなたにとっての本番です。

前述したように、他人に聴かせることだけが本番ではありません。

あたなの意思による音楽表現は、どれも本番です。

大切なことは、“本番”と“練習”を区別して曲を選ぶこと。

本番では、好きな曲、自分が弾きたい曲を弾きたいように弾いて、存分に演奏を楽しんで下さい。

難しくて上手く弾けない箇所は、自分に出来る範囲の表現に変えて演奏すればいいのです。

例えば、音を間引く、符割を変える、ヴォイシングを変える、サイズを変えるなど、今の自分に出来ることをフル活用させて、曲を形にしてみて下さい。

今の自分に出来ないことを出来るようにするには、もちろん練習ですよね。

問題は、“どう練習するか”です。

前提として楽器の練習法には、「曲を使わない基礎的な練習法」と「曲を用いた実践的な練習法」があることは理解しておきましょう。

では、初級者さんが練習曲を選ぶ時のポイントを紹介しておきます。

くどいようですが、決して「好きな曲だから、楽しいから」という理由で選ぶものではありません。

練習曲は、その曲を通じて「何が学べるか」という視点で選びます。

いい練習曲を選ぶコツは、今の自分にほんの少しの負荷がかかる内容の曲を探し出すことです。

今の自分の実力と比べて、難しすぎる曲や簡単すぎる曲は練習には適していません。

今すぐに上手く弾くことは出来ないが、数週間〜1ヶ月程度かければそこそこ形に出来そうだと思う内容の曲を選びます。

初級者のうちはこの思わくが外れて、何ヶ月経ってもまともに弾けない曲を選んでしまうことがありますが、その場合は潔く見切りをつけて他を探しましょう。(先生に選んでもらえばこれは防げます)

もう一つ重要なことは、練習曲を最初から最後まで通して(フルコーラスで)弾くことに固執しないことです。

練習曲はあくまで実力を上げるための練習材料なので、まるでアーティストのようにカッコよくフルコーラスを通して弾かなければならない、なんてことはありません。

例えば、サビのコード進行だけを弾けるようにするとか、イントロのメロディだけを弾けるようにするとか、曲の一部分だけをしっかり弾けるようにするだけでも、適度な負荷がかかってさえいれば、それは充分に充実した練習になります。

曲を使って練習する時は、何でもいいので何かひとつ「自分が上達している」という手応えを感じられるように意識して練習して下さい。

練習曲として選んだ曲が、練習を続けて行くうちに上手く弾けるようになって、本番でその曲を弾きたくなることはあり得ますが、本番で弾きたい曲が、今の自分にとって最適な練習曲であるということは滅多にありません。

練習曲がいつの間にか本番曲になることはあっても、逆はないのです。

「本番で弾きたい曲=最適な練習曲」ではないことは、絶対に忘れてはいけないことなんです。

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西沢恭輔