現在Talkingまたは他教室に通われている生徒さんや、音楽教室に興味をお持ちの皆さんに向けて、自分がこれまでの講師生活において、経験したことや感じたこと、楽器指導に対する考え方など、どうでもいい話から少し固い話までざっくばらんに自分の思考を書いています。
前ページ(上達の早い人、遅い人)の続きです。
私のレッスンでは、毎回必ず課題を出します。
楽器のレッスンとは課題をもらうために来るところですから、課題が出るのは当然です。(上達することが目的の生徒さんの場合)
そしてその課題が、何のための課題であるかを理解することはとても大切なことなのです。
例えば、私が生徒さんにある課題曲を与えたとします。
「この課題曲は、きっとこの技術を身につけるための課題なのだろう」「先生はこの課題曲を通じて、こんなことを学ばせようとしているのではないだろうか」と理解する、あるいは推測しよとする生徒さんは、上達の早い人です。
与えられた課題に前向きに取り組むのは、上達を望む生徒さんにとっては当たり前のことですが、課題の目的を考える習慣を持てば、さらに上達は早まります。
例え間違った推測でもいいのです。そういう考えを持っていることがプラスに働くのです。
反対に、「この課題曲は弾いていても楽しくない」「自分が弾きたい曲と違う」と、その時の感情だけで受け取ってしまう生徒さんは、上達の遅い人です。
物事の本質を見抜くのが苦手なタイプなのだと思います。
「なぜ先生はこんな課題を自分に与えたのだろう」と考えることが大切なのです。
私の出す課題には必ず目的があります。
しかも、かなり緻密に計算して課題の内容を設定しています。
その課題の目的を考えることも勉強の内なのです。
仮にあなたが、何かを教える立場だったとします。
あなたの所に、技術や知識を学びたいと、人がやって来ました。
あなたはその人と、お金と引き換えに技術や知識を指導する約束をしました。
あなたはお金を受け取りました。
あなたはその人に、無意味なことを「やりなさい」と言いますか?
きっと「少しでもその人の期待に応えたい」と思うはずです。
小学生の頃を思い出してみて下さい。遠足に行った翌日は必ずと言っていいほど「遠足の思い出」というテーマで作文を書くという宿題が出されましたよね。
あの課題の目的は、子どもたちが遠足でどう感じたかを確かめる事ではなく、子どもたちに文章を書く機会を与えることにあるはずです。
感じたことを文章にする機会をなるべく多く持たせる事で、その後の人生で必要な文章力を身に付けてもらいたいという思惑が先生にはあったはずです。(子どもたちがどう感じたかなんて、様子を見てれば分かること。)
課題を通じて、伝えたいことが必ずあるのです。
指導者とはそういうものです。
ひとから物事を習うということは、自分の願望ばかりではなく、その人の心の中を想像するということが必要なのです。
その方が絶対に成長が早いです。
「テストで高得点を取る秘訣は、出題者の意図をくみ取ること、何を答えさせようとしているのか推理すること」だと、テレビでお馴染みの林修先生が言っていました。(いつやるの?今でしょ!)
楽器の上達法にだけ限って言えば、私の頭は生徒さんより遥かに賢いのです。
生徒さんの想像力より、遥かに深い知識を持っているのです。
これは少し解りづらいかもしれません。(上手く伝えられるかな)
「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」、中国にはこんな格言があるそうです。
これは、「飢えた人に魚を与えても一日だけしか食べられないが、魚の釣り方を教えれば、その人は一生食べることができる」という意味です。
私の指導の特徴は、まさにこれです。
答えを教えるのではなく、考え方や学び方、答えを導き出す方法を学んでもらえるように指導しています。
私は、生徒に答えだけを教えている先生は、指導力の低い先生だと思っています。
「ここはこのように押さえなさい」「ここはこのように弾きなさい」と答えだけを教えたとします。
例えそれで生徒さんがその曲を弾けたとして、他の曲はどうやって弾くのでしょうか?
他の曲も同じように、また「答えだけ」を教えるのでしょうか。
その指導では、その生徒さんは常に先生がいなければ曲が弾けないことになってしまいます。
永遠に独り立ちできません。
例えば、ある曲にコードをストローク奏法で弾く場面があったとします。
先生のお手本をただ真似しているだけでは、他の曲で応用できませんが、ダウンストロークとアップストロークをどう使い分けるかを知っていれば、いろんな曲を弾く時に役立ちます。
コードをアルペジオする場合、6弦を最初に弾く時と、5弦を最初に弾く時があって、稀に4弦を最初に弾くこともあるけど、それは何故か。
その理由を知っていれば、いろんな曲でアルペジオする時に役立ちます。
ギターの1弦は、通常では解放弦を「ミ」の音にチューニングします。もし1弦で「ソ」の音を出すには3フレットを押し弦することになりますが、 12音階を理解していれば、全ての弦の全てのフレットの音を導き出すことができるようになります。
楽器の上達において大切なのは、答えを導き出す方法を学ぶことです。
「なぜこの押さえ方をするのか」
「どういう時にこの弾き方をするのか」
考え方、選択の仕方、自由にギター(ウクレレ)を弾くためのノウハウを学ぶのです。
私は生徒さんが入会される時、必ず次の質問をしています。
「あなたが弾きたい曲は1曲だけですか? それとも沢山の曲を弾きたいですか?」
「先生から弾き方を習って弾ければいいのですか? それとも自分だけの力で曲が弾けるようになりたいですか?」
1曲だけ弾ければ満足という人は、その曲の弾き方(答え)だけを知って、それを丸覚えでいいでしょう。
魚を与えるだけなので、指導するのも楽です。
ですが、沢山の曲を自分だけの力で自由に弾けるようになりたいと思う生徒さんには、魚の釣り方を教えなければならないので、時間がかかります。
この場合は高い指導力が必要になります。
時間はかかるのですが、目標に近づくには結果的にそれが近道なんです。
曲の弾き方を丸暗記しただけでは、自分が表現したい音楽を自由に表現できるレベルには永久にたどり着けません。
上達の早い生徒さんは、わりと早い段階でこのことに気づきます。
なので、上達の早い人ほど、私の指導を高く評価してくれます。(ありがとうございます)
逆に、考え方を学ぼうとはせず、いつも答えだけを欲しがっている生徒さんは、上達の遅い人です。
私に言わせれば、学び方が解っていないという印象です。
よく日本のプロ野球選手がアメリカのチームに移籍して、現地で入団記者会見をすることがありますよね。
その時、冒頭の挨拶だけは拙い英語で話し、その後の質疑応答の場面になると、通訳を介して日本語で答えているというシーンをよく見かけます。
あれは、選手が事前に冒頭の挨拶文だけを丸暗記している証拠です。
もし高い英語力があるなら、質疑応答も最後まで英語で話すはずです。
事前に暗記した通りに話すことができても、相手の英語を聞き取って、自分の言いたいことをその場で考えて流暢に話すことができなければ、英会話をマスターしているとは言えませんよね。
ギターやウクレレも全く同じです。
丸覚えしたことをそのまま弾いているだけだは、自分が表現したいことを自由に表現することはできないことに気づくことが大切なのです。
生徒さんの目標というと、ジャンルや演奏スタイル、曲目などは人によって様々ですが、多くの人に共通していることは、「自分が弾きたい曲を、自分の力で自由に弾けるようになる」ことです。
そのために必要なノウハウを学ぶ場がギター(ウクレレ)教室です。
例えば、アルペジオ奏法の基礎を習ったとします。
初歩的なコード進行で、アルペジオがスムーズに弾けるようにするというのが課題だとします。
練習の甲斐あって、課題曲をアルペジオで何とか弾けるようにはなりました。
先生からもめでたく合格点がもらえました。
次に生徒さんがやることは何ですか?
例えば、自分の好きな曲(得意な曲)にアルペジオを取り入れて弾いてみようとする生徒さんは、間違いなく上達の早い人です。
学んだことを他の曲にも活用させ、発展させていくプロセスはとても楽しい作業です。
「新たに習得した技術を活用させて、これまでと違ったアレンジで曲を弾いてみよう」と、自ら行動に移した経験がその人を飛躍的に成長させてくれます。
反対に、課題曲をクリアしただけで満足していて、何もせず次の課題を貰うのを待っているだけの生徒さんは、上達の遅い人です。
学んだことをどう活用させていいか解らない。もしくはその意思がないということですよね。
レッスンを受けに来ると、必ず課題が出されますが、生徒さんはその課題をクリアしないと次のステップに進めないので、なんとか課題をクリアしようと努力します。
レッスンの内容が次のステップに進んで行くと、それだけで自分が進歩し、上達しているような気になって満足してしまうことはないでしょうか。
課題がクリアできたことは確かに進歩ですが、それ自体が目的ではないはずです。
課題をクリアするためにギター(ウクレレ)を習い始める人なんているのでしょうか。
課題というのは、目標を達成するために必要な技術と知識を学ぶためのステップのひとつに過ぎません。
生徒さんが達成したい目標は、「自分が弾きたい曲を、自分の力で自由に弾けるようになること」だったはずです。(そうでない人もいますが、多くの人はこれに当てはまります)
課題を通じて身につけたことが自分の演奏に生かしていなければ、何のための課題か分かりませんよね。ただ課題曲を弾いただけになってしまいます。
課題をクリアすることだけに注力して、本来の目標を見据えた練習をしていなければ本末転倒です。
もうひとつ上達の早い人と遅い人の決定的な違いをお話します。
上達意欲の高い生徒さんは、私が出した課題だけでなく、それ以外の練習にも自ら取り組んでおられることがあります。
それは好きな曲だったり、自身が持っている楽譜だったり、エチュードだったり様々です。
出された課題以外のことに自ら取り組むことは、上達には必要なことなのでいいと思いますが、問題はその内容です。
例えば、Fコードに苦手意識を持っている生徒さんが、それを克服するために適度にFコードが出てくる曲を選んで練習しているというなら、その人は上達の早い人です。
自分のレベルに適した難易度で、自分が今克服するべき内容が解っていて、それを踏まえて練習内容を自分で選ぶことができる人は、将来間違いなく上手くなれるでしょう。
理にかなった練習をしていて、練習のやり方が上手い人です。
反対に、上達の遅い生徒さんはどうかというと、見当外れな内容を選んで練習している人です。
自分のレベルに適さない難易度の曲や、順序を無視した内容を選んでいたりします。
例えば、こちらが与えた簡単な課題さえ満足に弾けていない生徒さんが、インターネットか何かで知った奏法に興味を持って、「〇〇奏法を教えてください」と言ってくることがあります。
ご自身の今の状況が見えていないのでしょうね。
(悪い予感がします)
「あなたは、なぜ〇〇奏法の練習をしようと思うのですか?」と尋ねると、
「特に理由はないのですが、なんとなくやってみようと思って…」と返ってきます。
(悪い予感が的中です)
これは上達の遅い生徒さんによくある行動です。
なぜ、意味がよく解らないことを理由もなく練習するのですか?
今のあなたに本当にそれが必要でしょうか。
その奏法が何のための技術で、それを練習することで自分にどんな効果があるかも解らず、ただ偶然目にした奏法を根拠なく練習するのって、あまりに非効率で生産性が低過ぎますよね。
根拠を持たずに練習することを選んでいる人って、結構多いのです。
大きな目標を達成するために重要なことは、その目標に至るまでの階段が見えていることです。
自分の目標が何で、今の自分に何が足りなくて、今何を身につけるべきかをよく考えれば、自分が今取り組むべき練習が必ず見えてくるはずです。
上達が早いか遅いか、最も大きく別れるポイントは練習量です。
これは当たり前過ぎて言うまでもないことなので、今回は触れていません。
今回あげたポイント以外にも、上達の早い人と遅い人の共通点は沢山あります。
今回紹介したポイントをまとめて言えば、上達の早い人は学習力が高く、論理的思考を持っていて、そして行動力のある人ということになります。
ギターやウクレレだけに限らず、きっと何をやっても成長が早い人たちだと思います。
反対に、上達の遅い人たちは想像力が乏しく、考えることや自分を客観視するのが苦手で、何をやっても学びが遅いのかなと感じます。
ですが、学習力が高いか低いか以前に、ギターやウクレレの上達においてもっと重要なことは、「上手くなりたい」という気持ちがあるかどうかです。
上手くなりたい気持ちが強い人は、努力を続けます。
学びが遅い人は、他人より時間をかけて学べばいいだけのことです。
学び方が解らなくても心配はいりませんよ。全部私が教えてあげます。
西沢恭輔