ギター・ウクレレ教室 Talking

奈良県桜井市のギター教室

 

コラム

現在Talkingまたは他教室に通われている生徒さんや、音楽教室に興味をお持ちの皆さんに向けて、自分がこれまでの講師生活において、経験したことや感じたこと、楽器指導に対する考え方など、どうでもいい話から少し固い話までざっくばらんに自分の思考を書いています。


アドリブが弾けるまでには

あなたはミュージシャンのアドリブ演奏を聴いたことがあるでしょうか。

アドリブというのは、事前に決めていないことを演奏中に瞬時に考えて演奏することです。
演奏の全て、もしくは大部分をアドリブで演奏することを即興演奏(インプロヴィゼーション)と言います。

私たちが普段耳にしている音楽の中には、実は演奏者たちのアドリブがとても多く含まれています。

曲の大半だったり、一部分だけだったり、音楽のジャンルによって程度は様々ですが、現代音楽のほぼ全ての曲に何かしらのアドリブが含まれているのです。

私がギターを始めたばかりの頃は、楽器をアドリブで演奏できるものだということ自体知りませんでした。
全て事前に決められていることを弾いているものだと思っていたのです。

後にギターを習うようになって、楽器をアドリブで演奏する人がいることを知り、そして自分の好きな音楽の大部分がアドリブで演奏されていることを知り、私の中にとても大きな目標が出来たような気がしました。

演奏中にその場で何を弾くかを考えて、音のカケラを紡いでいき、フレーズを繋げてカッコいい音楽を瞬時に作り出すプロミュージシャンたちのアドリブプレイの素晴らしさには圧倒されてしまいますよね。

アドリブが上手く弾けるようになるまでには、どのような道のりがあるのでしょうか。
誰にでも弾けるものなのでしょうか。

今回は、アドリブを習得して行くために必要な考え方と、私がおすすめしている練習方法を紹介します。

最初に言っておきますと、私はアドリブを弾くのが大好きです。
アドリブするためにギターを弾いていると言ってもいいくらいです。

何かの曲を弾いたり、誰かのプレイをコピーしている時も、「どうすればいいアドリブができるだろうか」と常に考えています。

生徒さんに指導している最中も、生徒さんと一緒に演奏する場面でついアドリブを入れたくなってしまうことがあるのですが、こちらがアドリブを入れると、生徒さんが慌ててしまって上手く演奏できなくなってしまうことがあるので、アドリブしたい衝動を我慢して抑えているくらいです。

誤解のないように言っておきますが、私はアドリブが「好き」なだけで、「得意」というわけでは決してありません。
得意になれるべく、現在も修行中であります。

私が初めてアドリブに挑戦したのは、専門学校に入学してすぐの時でした。

なぜか専門学校では「ソロはアドリブで弾くのが当たり前」という空気があって、どんな曲でもソロはアドリブで弾くものとみんな思っていましたし、先生もその前提で授業を進めていました。

入学当初はギター経験がまだ1年程度だったので、上手くアドリブするなんて当然できるはずもなく、授業のたびに何も弾けないまま曲が終わってしまうというありさまでした。

悔しさを噛み締めながら日々練習を続け、何度もトライして行くうちに、ほんのわずかですがアドリブする感覚が解るようになって行きました。

とはいえやっていることと言えば、ただペンタトニックスケールを上がったり下がったりしているだけ。
あとは時々事前に仕込んでおいた簡単なフレーズを入れるだけの“へなちょこソロ”です。

アドリブを楽しむ余裕なんてほとんどなかったのですが、へなちょこソロの最中のほんの一瞬ですが、「あっ!今、気持ちいい」と感じる瞬間があって、この気持ちいい瞬間が忘れられず、その後の練習へのモチベーションになっていました。

専門学校の2年間はこうして“へなちょこソロ”で乗り切って行きました。

少しは自然なアドリブが弾けるようになって来たかな?と実感できるようになったのは、専門学校を卒業してから随分経ってからのことです。

ここまでの道のりといったら、長いこと長いこと。

ギターやウクレレをアドリブで演奏することは、誰にでも出来るものなのでしょうか。

私が思うに、ただアドリブを演奏するだけなら、ある程度の演奏力さえあればそれほど難しいことでないですが、「様になったソロをアドリブで弾く」となると、相当の鍛錬が必要でしょう。

これは実際にプロの演奏家たちも言っていることです。

大事なことなので、もう一度言っておきますよ。

「様になったソロをアドリブで弾くのはとても難しく、相当の鍛錬が必要である。」

このことを頭に入れていただいた上で、今からアドリブをマスターして行くために必要なことをお話します。

まず、「アドリブしよう」という強い意志が必要です。(いきなり精神論で恐縮です)

当たり前のことですが、自分自身が「アドリブを弾こう」という意志がないとアドリブになりませんよね。

例えば、楽譜通りに弾いたり、音源をコピーするのが目的の場合は、弾くこと(自分が何を弾くか)が決まっているので、 練習のゴールがはっきりしています。
楽譜通りに弾けた、音源と同じに弾けた状態がゴールですよね。

ですがアドリブの場合は、弾くことが決まっているわけではないので、練習のゴールが明確にあるわけじゃないし、正解とか不正解があるものでもありません。

言ってみれば、何を弾いても自由なわけです。
ある意味、何を弾いても正解と言えます。(いい演奏かどうかは別として)

この自由であることが、練習をとても難しくさせてしまいます。

アドリブ初心者を必ずと言っていいほど最初に悩ませる問題が、「何を弾いたらいいか解らない」問題です。

弾きたいことが浮かんで来ない、浮かんだとしてもそれを弾く技術がない。
だから「何をどう練習していいか解らない」となってしまうのです。

事前に「よし、必ずアドリブを入れよう」と意気込んで演奏を始めたとしても、土壇場でつい怖気付いてしまって何も弾けない(アドリブできない)で終わってしまう、という経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

最初は“当てずっぽう”でもいいので、とにかく「何か弾いてみよう」という意志が必要です。

アドリブというのは、自分の中に「どうしてもアドリブが弾きたい」というモチベーションがないと、練習を始めることさえできないという性質があるのです。

次に練習方法についてです。

何事も練習のやり方が重要で、たとえ意欲があってもやり方を間違えると期待通りの成果は得られません。

私がおすすめしている練習法は、ソロをアドリブするのではなく、まずは伴奏をアドリブで弾くという方法です。

伴奏といえば多くの場合、コードをストロークしたり、アルペジオしたり、カッティングしたり、あるいはコードトーンを使ってリフを弾いたりしますよね。

それらのプレイをアドリブで弾いてみます。

全てがアドリブでなくてもいいのです。曲の途中で部分的にストロークパターンやアルペジオパターン、リズムパターンをアドリブで変化させてみましょう。

音はそのままで、リズムだけを変化させるのです。
慣れてきたら使う音も少しずつ変化させて行きます。

ソロをアドリブするのに比べて、随分とハードルが下がりませんか?

伴奏はソロに比べて使う音を限定してプレイしやすいので、アドリブする感覚を掴むのに最適な練習法だと思います。

しかもアドリブプレイにおいて必要不可欠となる、“小節感覚”を身につける手段としても打って付けの練習法と言えます。(ここ重要)

伴奏をスムーズにアドリブすることが出来なければ、ソロをアドリブで弾くなんて到底できないと思っておいた方がいいでしょう。

次はソロを練習するにあたって大切な事をお話しします。

アドリブ初心者がソロを練習し始めたばかりの頃にありがちなのは、とにかく音数が多くなりすぎることです。
めったやたらと弾きまくってしまう人、とても多いですね。

しかもフレーズとは言えないような音の羅列をただ弾いただけ、という状態です。(最初はみんなここから始まるんですけどね)

これを続けていてもアドリブは上手くなれません。

速く弾いた方がカッコよく聴こえるんじゃないか、多くの音を使って弾いた方が上手く見えるんじゃないかと思うかもしれませんが、それは逆効果です。

確かにプロミュージシャンのソロを聴くと、多くの音を使ったフレーズや速いフレーズを弾いていることが多々ありますが、それは伴奏との協和があってこそのもの。

音楽はメロディと伴奏の協和によって成り立っています。

音数が多くなればなるほど、伴奏に協和させるのが難しくなってしまいます。
少ない音数で上手く伴奏に協和させることができなければ、沢山の音を使って伴奏に協和させてソロを弾くなんてできるはずありません。

最初から沢山の音を弾こうとするのではなく、少ない音でシンプルな短いフレーズを充分な間を取りながら伴奏に乗せて行くように練習しましょう。

カッコいいソロを弾こうとか、上手く聴こえるようなソロを弾こうとするよりも、「カッコよくなくてもいいので、最低限音楽として“自然に聴こえるメロディ”を弾こう」という意識を持つ方が、上手くアドリブを弾くコツが早く掴めるはずです。

ここでひとつ、ソロをアドリブする感覚を身につける良い練習方法を紹介しましょう。

曲は何でもいいので、まず歌のメロディを楽譜通りに正確に弾けるように練習します。これが第1ステップです。

なるべくミドルテンポで、覚えやすく、符割がシンプルなメロディが理想的です。
もう少し詳しく言うと、4拍子で、部分転調がなく、1〜2小節毎にコードが変わる進行、かつシンコペーションしていない、これらの条件が満たされている曲なら最高です。

その曲のメロディを伴奏に乗せて、楽譜通り正確に弾けるようになったら、次は少しずつメロディを崩して行きます。これが第2ステップ。

例えば、次のような感じです。

このように自分に出来そうなことからトライして行きます。

これならプロが弾いたフレーズをコピーするより遥かに簡単だし、初心者にとっては現実的でしょう。

絶対に忘れてはいけないことは、常に“音楽として自然に聴こえるメロディ”を心掛けること。

音楽として自然に聴こえるメロディとは、分かりやすく言うと「歌のメロディ」のようなメロディです。
頭の中で歌をうたっているような感覚でメロディを弾くわけです。(実際に声に出して歌いながら弾ければさらによし)

そうすると音数が減り、息継ぎをするタイミングで間ができて、突然音程が大きく上下したりしないはずだし、デタラメに音の羅列をただ弾きまくっているだけ、という状態にはならないはずです。

ギターやウクレレのソロをアドリブするというより、歌のメロディをアドリブで作っているような意識で弾くことはとても大切なことなのです。(これがなかなか難しい)

繰り返しになりますが、伴奏と協和していなければ、あなたのプレイは音楽にすらなっていないことを理解しておかなければなりません。

メロディとコードの協和について深く勉強していくと、メロディは様々なアイデアから成り立っていることが解ってきます。

どうやら、どんなアイデアから成り立っているのか知ることが、アドリブソロを上達させるための秘訣のようです。(私もまだまだ勉強中)

よく生徒さんから、「アドリブってどうやって弾いてるんですか?」という質問をいただくことがあります。

次から次へと楽譜にないことを弾き始めるわけですから、アドリブの出来ない人から見たら不思議に見えるでしょうね。

私がどうやってアドリブを弾いているかというと、上手く言語化するのは難しいのですが、私の身体の中に大きな2つの柱があるように感じています。

一つは、指板上の音の配置を把握していること。

アドリブとは、その瞬間に自分が弾きたいことを音で具現化するわけですから、弾きたい音が指板のどこにあるか把握できていることが必須条件です。

指板のどの位置に自分の弾きたい音があるのか、スケールの音はどこにあって、コードの音はどこにあって、コードに協和する音はどこにあるか、指板の構造を把握していて、それを瞬時に弾けるようになっていなければなりません。

これは日々のトレーニングによるものです。私は指板の音の配置を完璧に身体に覚えさせると同時に、頭の中でイメージした音を正確に具現化できるよう日々基礎トレーニングを続けています。

もう一つは、巨匠たちのプレイを耳に焼き付けていること。

赤ちゃんは周りの大人たちが話す言葉を聞いて言葉を覚えて行きます。
同じように音楽も繰り返し聴いていると、その音楽の響きが頭の中に焼き付いて行き、データとして記憶に刻み込まれて行きます。

巨匠たちのプレイを何度も何度も聴いて、音使いやソロの特徴を耳に焼き付けて行くのです。

よくアドリブを上手くなるには巨匠たちのフレーズを沢山コピーすることだと言われたりしますが、おそらくそれは多くの人にとってハードルが高いと感じるでしょう。

毎日浴びるように音楽を聴きまくることで、例えコピーするのは無理だとしても、雰囲気だけを似させて弾くことならできるようになって来ます。

「指板上の音の配置を覚え切る」
「巨匠たちのプレイを耳に焼き付ける」

この2つの柱のおかげで、私はアドリブを弾くことが出来ているのだと自覚しています。

アドリブの習得への道のりとは、この2本の柱を何年、何十年と長い時間をかけて同時に育てて行くことなのです。
どちらか一方だけでは駄目です。両方が必要です。

どちらも特別な才能なんて要りません。誰でも今すぐ始められるはずです。

「アドリブなんて自分には無理だ」と諦めていた人も、まずは種を蒔くところから始めて、自分のペースでじっくりと小さな苗木を育ててみましょう。そしていつか、とてつもなく大きな大木にまで育ててやろうではありませんか。

私の教室では“アドリブプログラム”と題して、自由にアドリブ演奏ができるようになるまでのプロセスに特化したカリキュラムを作成し、一段ずつステップを上がって行くシステムで指導しています。(公文方式ですね)

このプログラムは、プロのミュージシャンのような魅力的なアドリブを誰でもマスター出来るというものではありませんが、アドリブを習得するための練習のやり方は理解できるようになるでしょう。
そして“音楽として自然に聴こえるメロディ”であれば、アドリブで演奏できるようになれるでしょう。

私はこのプログラムによって、アドリブが全く出来なかった生徒さんたちが、徐々にアドリブ出来るようになって行く過程を見るのが楽しくて、とても充実感を感じます。

これを読んで下さっている人の中には、ギターやウクレレで曲を弾いていても直ぐに飽きてしまうという人はいないでしょうか。

大好きな曲なのに何故か飽きてしまう。
同じ曲を何度も弾いていると楽しさが薄れて行く。

もしかしたらそれは、いつも同じことしか弾いていないからではないでしょうか。

アドリブが弾けるようになると、楽器を弾くのが何十倍も楽しくなります。

想像してみて下さい。あなたの頭の中に次々とメロディが湧き起こってきて、それを瞬時に正確に、常に自分の思いのままに音楽が表現できたとしたら、それはどんな気分でしょうか。

今回のまとめ

西沢恭輔の写真

西沢恭輔