現在Talkingまたは他教室に通われている生徒さんや、音楽教室に興味をお持ちの皆さんに向けて、自分がこれまでの講師生活において、経験したことや感じたこと、楽器指導に対する考え方など、どうでもいい話から少し固い話までざっくばらんに自分の思考を書いています。
ギター(ウクレレ)を始めても挫折する人っていますよね。特に独学でやっている人は挫折しやすいと思います。 教室で習ってても挫折してしまうという人も実はいます。
ここで言っている「挫折」というのは、ひとと同じだけ、あるいはひと以上に努力しても、ひとと同じだけ上達できず心が折れてしまうという意味です。 (ひとと同じだけの努力をしないで、楽しくないので止めてしまうことを挫折とは言いませんのでお間違いないように。)
なぜ人は挫折してしまうかというと、取り組んでいる内容のハードルが高すぎるからです。
例えば、小学1年生に6年生の算数を教えたらどうなると思いますか?
おそらく誰も理解できないし、計算力が上がらないうえに、算数を好きになるわけありません。
1年生は1年生の教科書を使って勉強し、3年生は3年生の教科書を使い、6年生は6年生の教科書を使うのがベストです。
つまりそれは、教科書がその生徒にとって適切なハードルに設定されているということです。
ギター(ウクレレ)も同じことです。
初心者は初心者向けの教科書、レベル3の人はレベル3の教科書、レベル5の人はレベル5の教科書を使って練習するべきです。
自分のレベルと教科書のレベル(取り組んでいる練習内容)に大きな差があると練習の成果が見えないうえに、いつまで続けても弾けるようにならないので、上達しているという実感がないのです。それで心が折れてしまうんです。
挫折する人はほぼこのパターンです。
上手くなりたい気持ちは凄く強いのに挫折したという経験のある人は、自分が取り組んでいた練習内容が自分の実力に相応しい内容であったか思い返してみてください。
きっと相応しい内容ではなかったと思います。
私の教室に来られた生徒さんたちにも、独学で挑戦してみたけど挫折してしまったという人は多いのですが、一人でどんな練習をしていたか詳しく聞いてみると、まず練習内容がその人のレベルに合っていません。
基礎練習を飛ばして曲を弾いていたり、初心者が初心者向けではない曲を練習していたりです。
独学でギター(ウクレレ)を始める人に多いのは、好きな曲から取り掛かることです。
好きな曲から練習する人ほど挫折する確率が高いのです。順序が違うからです。
何か物事を学ぶ時って、必ず順序というものがあります。
私の教室のレッスンでは、生徒さんのレベルに対してちょうどいいハードルの高さに設定します。
ちょうどいいハードルというのは、1週間練習に取り組んだら成果が見えるくらいのハードルです。高すぎず低すぎずです。
たったの1週間(当然毎日ですよ)取り組んだだけで表れる成果は小さいかもしれませんが、確実に実力がつくし挫折しないですみます。
続けようという意思のある人は続けていけるんです。ゆるい負荷をかけて筋トレしているような感じです。
1週間で最初のハードルを越えられたら、次はほんの少しだけハードルを上げます。それが越えられたらまた少し上げて、それを続けていきます。
少しずつ負荷を強めていくわけです。
私の教室に通い始めた人で勘のいい人なら、直ぐにこの指導法に気づくでしょう。
時間はかかりますが数年後には確実に上達しています。
いわゆる世間で言う「ギターが弾ける人」になります。
さらに数年続けると「ギターが弾ける人」から「ギターが上手い人」になります。これ間違いないです。
私はこの練習法を「公文方式」と呼んでいます。
公文(くもん)に通ったことがある人はご存知だと思いますが、公文の学習法は同じようなレベルの問題をとにかく反復させていくのです。 ○+1という問題を何十問と解いて、全問解けたら次は○+2を何十問、次は○+3という具合にひたすら同じような足し算を繰り返し解く練習をします。 反復させながら少しずつ難度を上げていくことで、難しい計算が瞬時に出来るようになるという学習法です。
時間はかかりますが、これだと挫折しないんですね。
私も小学生の頃に公文教室に通わされていたので、そのおかげで算数は得意でした。
今思えば公文式は楽器の習得法にすごくよく似ています。
他教室では初心者の生徒さんに対して、生徒さんが練習する内容(曲など)を生徒さん自身に選ばせている先生もいらっしゃるそうです。
生徒さんが選んできた曲を、その人のレベルに適しているかどうかに関わらず、“ただその曲の弾き方を解説するだけ”というレッスンだそうです。
それで挫折してしまった生徒さんが私の教室によく来られます。取り組む内容が難し過ぎたんですね。
挫折しても無理もないですよ。練習の順序が違いますから。(上級者の場合は別です)
そういう指導の方がいいという人もいるでしょうから、そういう人にはそれでいいと思います。
しかし考えてみてください。どの順序で練習すれば上手くなれるのかが解らないから習いに来ているのに、「自分が練習したい曲を選んで来なさい」なんて、おかしいと思いませんか?
私の教室では、挫折してしまう生徒さんはほとんどいません。(ほとんど努力しないで止める人はいますよ)
なぜ挫折しないかというと、公文方式だからです。
私は生徒さんのレベルを見て、その人に何を練習させることで今の実力が上げられるのか判断して練習内容(課題)を決めます。
これは医者が患者に薬を処方するのに似ています。今の状況を診断して、次回のレッスンまでに自宅で行うべき課題を処方するんです。
「こちらの教室では私が弾きたい曲を教えてもらえるんですか?」
初めて私の教室に来られた生徒さんからも時々こんな質問を受けます。
この質問が来た場合、私はいつもこう答えるようにしています。
「授業料さえ納めていただければもちろん教えますが、弾き方を教えたとしてもあなたにその曲が弾けるかどうかは分かりません。もしあなたにその曲を弾くだけの技術があれば弾けるはずですが、技術がなければ弾けないです。だからもし技術が足りなければ、技術をつけるところから始めなければなりません」。
生徒さんの目的は曲の弾き方を解説してもらうことではなく、その曲を上手く弾ける実力になることではないでしょうか。
この私の説明を聞いて、大きくうなずいて腑に落ちた顔をする人と、理解できずにポカンとした顔をする人に別れます。
腑に落ちた人は何も問題ありません。公文方式で継続すれば数年後にはその曲が弾けるようになります。
まずいのはポカンとした顔をする人です。
曲の弾き方を教わればそれで曲が上手く弾けると思っているからです。挫折するか、あるいは直ぐに止めてしまう可能性の高い人です。
このタイプの人はスタートラインに立つまでにも少々時間がかかります。
曲が上手く弾ける人はなぜ上手く弾けるのか。どのようにして技術が身につくのかを理解していないことになるので、そこから学んでいかなければなりません。
西沢恭輔