現在Talkingまたは他教室に通われている生徒さんや、音楽教室に興味をお持ちの皆さんに向けて、自分がこれまでの講師生活において、経験したことや感じたこと、楽器指導に対する考え方など、どうでもいい話から少し固い話までざっくばらんに自分の思考を書いています。
あなたはスケール練習にどんなイメージを持っているでしょうか。
ギターやウクレレを習得するにはスケールの練習はとても大切なことですが、「単調で退屈な練習」とか、「どんな意味があるのか解らない」とか、ネガティブなイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。
ギターとウクレレだけに限らず、ピアノや管楽器、弦楽器など、音階を表現できる楽器を上手く演奏するには、スケール練習は欠かせないものだと私は思っています。
なぜスケール練習が必要なのか、どんなメリットがあるのか、そもそもスケールとは何なのか。
今回はスケール練習に対する考え方についてのお話です。
「どうしてもスケール練習が好きになれない」「やる気が出ない」という人は、よければ参考にしてみて下さい。
今回お話しする内容は、主にギターとウクレレの初級者、中級者(経験者)向けの話になりますが、これから楽器を始めようかという人も、頭の片隅に記憶しておいて損はないかと思います。
ギターやウクレレを始めてしばらく経つと、スケールという言葉をそこらで目にするはずです。
楽器経験のあまりない人には、この「スケール」がよく解らないかもしれませんね。
スケール練習のメリットに触れるより先に、スケールがどういうものか説明しておきましょう。
スケールとは、あるルールに従って選ばれた“音のグループ”と思って下さい。ざっくりとそんな理解でいいと思います。
そのルールというのは、音楽を表現するのに最低限必要な音のことです。
ギターやウクレレは沢山の音が出せるのですが、実際に曲を演奏する場合、限られた幾つかの音しか使いません。音楽はそのように作られているのです。(音楽によって例外もありますが、大抵の音楽ではそうです)
その限られた音がいくつかというと、「7つ」です。
それを「スケール」と呼んでいるんです。(日本語では「音階」と言います)
1オクターブ以内に音は全部で12個ですが、1曲の中では主に7個しか使わないので、その7音をグループと考えて名前を付けているわけです。
全部で12個。
主に使う音は7個で、使わない音は5個。
簡単な話ですよね。
最もポピュラーなスケールと言えば、ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シの7音からなる「メジャースケール」と言われるやつです。
この7音をひとつのグループと考えてメジャースケールと呼んでいるだけです。
小学校の音楽の授業で習っているスケール(音階)なので、誰でも聴けば解るはずです。
明るい曲調のメロディは、ほとんどの場合このメジャースケールで出来ています。
一曲を通して全体の98%くらいはメジャースケールで作られています。
曲によっては100%メジャースケールということも普通にあります。
反対に暗い曲調のメロディは、ほとんどの場合「マイナースケール」と言われるスケールで出来ています。これもやはり7音のグループです。
実はこれも小学校で習っているので、聴けば何となく思い出すかもしれません。
明るい曲調ではメジャースケール、暗い曲調ではマイナースケールです。
明るい曲調と暗い曲調とで使われている7つの音をそれぞれのグループとして考え、その音のグループを使った様々な練習法を、一般的にスケール練習と言います。
スケール練習と一言に言っても、ただ音を階段のように上がったり下がったりするだけでなく、ある規則に従って音を飛ばしたり、リズムを変化させて弾いたりと、様々な練習法があります。
一体誰が考えたんだ?と思うような、恐ろしく難しい練習法もあったりします。
今回は専門的な話は省いて、なるべく簡単にスケール練習のメリットについて私の見解を話すとしましょう。
私が思うスケール練習で得られるメリットは大きく分けて3つです。
これは何となく想像できるのではないでしょうか。
主にメロディを演奏するリードプレイの基本を効率的に身につけることができます。
メロディというのは、音の動きを1音ずつ見ていくと、次の何れかしかありません。
確率論で話をすると、最も多いパターンは同じ音が続くか、あるいはスケールの一つ上(下)の音に行くパターンです。
次に多いのが、スケールの音を一つ飛ばして上がる(下がる)パターンで、スケールの音を二つ以上飛ばして上がる(下がる)パターンは比較的少なめです。
最も少ないのはスケール以外の音へ行く場合で、これは曲によっては一度も出てこないこともあります。
ということは、スケールの音を一つ上がる(下がる)流れと、一つ飛ばしで上がる(下がる)流れを優先的に練習しておいた方が良さそうですよね。
このようなメロディに多く出てくる音の動きを効率よく身につけられるのがスケール練習のメリットです。
プロの人たちが楽譜も見ないで何曲も続けて弾いているのを見て不思議に思ったことはありませんか?
どうしてあんなに沢山のメロディが覚えられるのでしょうか。
前述の通り、メロディの98%くらいはメジャースケール(もしくはマイナースケール)の7音で出来ています。
12音全てを使うわけではないのです。
ということは、メロディの音は高い確率で「7音の中のどれか」ということになりますよね。
これを知っていることはとても大事なことなのです。というか、超基本的なことです。
メロディを弾く時は「12音の中のどれか」ではなく、「7音の中のどれか」と意識して練習することで、そのメロディを覚えるのが飛躍的に早くなります。
当然ですがプロの人たちは、頭の中に浮かべたメロディを正確に弾けるように鍛錬しています。
スケールという7音のグループを徹底的に覚え切ることで、自分が弾きたい音を瞬時に弾けるようになって行くというわけなんです。
しかし、ただスケールの7音を弾けるようにしただけでは自分が弾きたいメロディを瞬時に弾けるわけではありません。
もう一つとても重要な要素があります。
それが「音感」です。
音感とは、音の高低を聴き分ける力です。
スケール練習の大きなメリットが、次に紹介する「音感を身につけることができる」ことです。
楽器の上級者と初級者との間には、楽器を弾く技術以上に音を聴く力に大きな差があることをご存知でしょうか。
ここで言う“音を聴く力”とは、主にメロディやコードを構成している音がどう変化したかを聴き取る力です。これを相対音感と言います。
初級者の頃は大抵、楽譜を頼りに自分が弾くべき音を覚えて曲を弾くはずです。
楽譜に「ド」とあるからドを弾いて、「ソ」とあるからソを弾くという感じですよね?
それは言ってみれば、楽譜の指示に従って記されている音を弾いただけです。
頭の中に弾くべき「ド」や「ソ」の音が聴こえていて、その聴こえている音を意図的に弾いているという実感はあるでしょうか?
ギターやウクレレでメロディを弾くためには、次に弾く音が頭の中に聴こえていることがとても重要なのです。
そしてその聴こえている音を間違わずに正確に弾けるかどうかです。
もし聴こえている音を正確に弾けるなら、楽譜を見なくとも知っている曲なら弾けるはずです。
本来楽器の練習とは、楽譜に記された音を弾けるようにすることではなく、自分の頭の中にある音を正確に弾けるようにすることなのです。(このことに気づくことはとても大事)
スケールというのは繰り返し弾き続けることで、そのスケールの持つ響きが耳に焼き付いて行きます。
すると曲を聴いただけでそのメロディがスケールの7音の組み合わせであることや、どのくらい音が上下したかが聴き取れるようになって行きます。
もしメロディの中にスケール以外の音が出てきた場合も、直ぐに「スケールから外れた音が含まれている」と気づけるようになるはずです。
つまり相対音感が身について行くということです。
自分が弾こうとしているメロディがどんなスケールから出来ていて、音がどう変化したかが聴き取れること。そして頭の中に浮かんでいるそのメロディを正確に弾ける力を身につけて行くことが、楽器の上達にどれほど重要なことか理解できるでしょうか。
上級者と初級者との演奏力の違いは、これまでに積み重ねてきた練習量の差によるものですよね。
スケール練習を重ねた時間の差が、演奏力の差に大きく影響していることは明白です。
実際に私の知っているプロの人や上級者たちは、みんなスケール練習が大好きです。
好きだからやるのか、必要だからやっているのか解りませんが、とにかく基礎的な練習を恐ろしいくらいにやっています。
楽器の練習って何でもそうですが、始める前はあまり意味が解らなくても、何ヶ月、何年と続けて行くうちに、練習のもたらす効果が解ってくるものなんです。
西沢恭輔