現在Talkingまたは他教室に通われている生徒さんや、音楽教室に興味をお持ちの皆さんに向けて、自分がこれまでの講師生活において、経験したことや感じたこと、楽器指導に対する考え方など、どうでもいい話から少し固い話までざっくばらんに自分の思考を書いています。
前回のページでは、発表会の目的と、参加することで得られるメリットについて話しました。
何のための発表会なのか、そこをしっかり理解したうえで、「興味がない」「必要ない」という人はそれでいいと思います。
ですが、本当は参加した方が得だと分かっているのに、不安を感じて二の足を踏んでいる人も多いのではないでしょうか。
今回は、そんな人に向けて私が思うことを書いてみます。
いまだ発表会に一度も参加したことがない人、“参加したいのに出来ない人”は是非最後まで読んでみて下さい。
まず先に、当教室の発表会について簡単に説明しておきます。
多くの教室では、生徒さんのご家族や友人など、大勢の人に聴いてもらうための発表会になっていると思いますが、当教室では、演奏する生徒さんと見学したい生徒さんだけを集めて行なっています。
一人1曲〜3曲、好きな曲を自由に選んで演奏してもらいます。
一人で弾くもよし、私と一緒に弾くのもよし、もちろん他の生徒さんと一緒に弾くのもよしです。
時間が余れば、他の曲も弾いたり、一度弾いた曲をもう一度弾いていただいても構いません。
市内の公民館で、15人も入れば満員になるほどの小さな部屋です。
発表会というより、“練習会”という雰囲気です。
大勢の前で発表するわけではないので、発表会ではなく「ギターとウクレレの演奏会」という呼び名にしています。(別ページに写真があるので、よければ覗いてみて下さい。)
このページでは一般的に認知されている呼び方で、“発表会”と呼ぶことにします。
私がこれまでに、いくつかの音楽教室で指導して来た経験から言うと、発表会にはいくつかの法則があります。
それは、「発表会に参加するのはいつも同じ人で、前年に参加した人は高い確率でその翌年も参加し、前年に参加しなかった人はその翌年も参加しない」、というものです。(これが法則その1)
きっと何処の教室でも同じだと思います。
「私は下手なので、発表会なんてまだ無理です。もう少し上手くなったら参加しようと思います」。
これは、発表会に参加しない人が必ずと言っていいほど口にする、おきまりの台詞です。
この台詞を言って参加しなかった人は、翌年もまず参加されません。
翌年もまた同じ台詞を言うだけです。
発表会というのは、上手な人が発表するためのものではありません。
もっと上手くなりたい人が、今よりレベルアップするためにあるのです。
参加する意欲のある人は、最初の1回目から参加されます。
そして、一度参加した人は高い確率で翌年も参加されるのです。
私の感覚では、だいたい8割くらいの人が翌年も参加されるように思います。
だから参加する人は毎年ほぼ決まっているのです。
一度参加した生徒さんの多くが翌年も参加するということは、発表会に何かしらの価値を感じているからではないでしょうか。
発表会に参加する人は皆んな、「自分の演奏を聴いてもらいたい」という願望の強い人ばかりではありません。
多くの人は、自分の演奏に自信はなくても「成長したい、学びたい、演奏経験をつけたい」という気持ちで参加しておられるように感じます。
発表会で生徒さんが演奏を終えた直後は、練習通りに上手く弾けた人も、そうでなかった人も、必ず笑顔になります。(法則その2)
なぜ笑顔になるかというと、「あー、やり遂げた」という清々しさと充実感が得られるからです。
“ランナーズハイ” という言葉をご存知でしょうか。
人は継続的な運動によって、肉体的疲労感の末に一時的に気分が高揚し、強い幸福感を感じる状態になることがあるそうです。
よくマラソン選手がレースを終えた直後に、テンションが上がった状態で喜びや悔しさをあらわにしている様子をテレビなどで見かけることがありますよね。
楽器の演奏にも、似た現象があるんです。
ステージでの演奏を終えた直後は、妙にテンションが上がって気分がハイになるのです。(私はこれを“プレイヤーズハイ”と呼んでいます)
普段無口で物静かな生徒さんが演奏を終えた後、やたらと上機嫌で口数が多くなるというのも、発表会ではよくあることです。
演奏を終えた後の清々しさや高揚感は、日常ではあまり得ることができない感覚ではないでしょうか。
ステージで演奏した人だけが得られる感覚です。
上手に弾けなくてもいいのです。緊張して指が震えても、何度ミスをしても、演奏が終わった後には何とも言えない達成感と充実感を感じるはずです。
発表会に参加できない生徒さんが、よくしている勘違いがあります。
それは、「下手なうちは人前で弾くのが恥ずかしいけど、上手くなったら緊張しないで堂々と人前でも弾けるようになる」、と思っていることです。(法則その3)
「上手くなったら人前でも緊張しないで弾けるようになる」と思うのは大きな間違いです。
どれだけ上手くなっても、緊張せずに弾けるようにはなりません。
人前でも緊張しないで本来の実力が出せるようになるには、“人前で弾く経験” を沢山積むことなのです。
発表会への参加を先延ばしにしても、人前で弾くことへのハードルが下がるわけではありません。
むしろ、ハードルは上がって行くのではないでしょうか。
先延ばしにすればするほど、その分だけ楽器経験が長くなり、習う内容が難しくなって行きます。
そのうえ、何年も習っているのに人前での演奏経験はゼロ。
初めての発表会で、「長くレッスンを受けている自分が人前で弾くのは初めてだし、自分より後から楽器を始めた人の方が上手だったらどうしよう」という不安に襲われたりしないでしょうか。
一度参加してしまえば、翌年からは「去年も参加した」という経験から気持ちに余裕が生まれるし、気後れしないで参加できるようになります。
勇気がいるのは最初の1回目だけなんです。
誰にだって初体験はあります。
その初体験を、「どのタイミングで経験するか」です。
私はなるべく早く経験してしまった方が得だと思います。
何故なら、一度人前で弾くことを経験してしまえば、翌日からはその経験を基に練習に取り組めるからです。
そして二度目からはハードルが下がるからです。
演奏を他人に聴かせた経験があるのと、ないのとでは、練習に対する意識や質が全然違ってきます。
「もっと上手くなりたい」「もっと練習したい」という気持ちが必ず強まるはずです。
楽器経験が浅いうちから人前で演奏することを経験し、沢山失敗を経験した方が得なんです。
失敗した分だけ成長できますからね。
発表会への参加を後へ先延ばしにして、得することなんて何もないんですよ。
ちなみに私は、「自分の演奏に自信が持てるようになったので、今年の発表会には参加したいと思います」と言って、昨年まで一度も参加したことがなかった人が、ある時から参加するようになった、という人など見たことがありません。
先延ばしにした人は、何年経っても永久に参加しないのです。(法則その4)
「自分の演奏に自信がない」「自分は下手だから、人前で弾くのが恥ずかしい」という理由で参加できない生徒さんに、私の考えをお話します。
先にも言いましたが、当教室の発表会は、演奏したい人だけを集めて行なっています。
なので、観客はいません。客席に座っているのは演奏する生徒さんたちです。
見ず知らずのあなたが、上手な演奏を聴かせてくれることを期待している人なんて、多分いないと思います。
失礼な言い方で申し訳ないのですが、あなたが思っているほど、他人はあなたの演奏に興味ないですよ。
他の参加者たちは、自分が演奏したいから参加しているのであって、あなたの演奏を聴くために参加しているわけではないのですから。
みんな自分のことにしか興味ないと思います。
勝手にあなたが、「上手く弾かなければならない」と思い込んでいるだけではないですか。
自分の思い込みが自分を苦しめているんです。
そういうことって、よくありますよね。
少し角度を変えて考えてみたら、小さなことに拘っていただけだったと、後になってから気づくようなことです。
あなたの知らない誰かが、発表会で一生懸命演奏している様子を想像してみて下さい。
その演奏がとても下手だったとします。
あなたはその人を見て、どう感じますか?
「下手なのに発表会に出る変わり者」と思ったりしますか?
私だったら、「人生を目一杯楽しんでおられるんだな」と感じます。
「何人くらいの人が参加されるのですか?」
「私くらいの年齢の人もいますか?」
「他の人たちは、どんな曲を弾かれるのですか?」
これは生徒さんからよく頂く質問です。
他の生徒さんたちは参加するのか、何人くらいの人が参加して、何歳くらいで、どんな曲を演奏するのか、そして演奏レベルはどのくらいの人たちか。
他人のことが気になる人が多いみたいです。
というより、他の参加者たちの中に自分が入った時に、自分が他人の目にどう映るのかを気にしているのでしょうか。
他人の目にどう映るかを気にする人、気にしない人、あるいは気にはなるけど「自分は自分」と思える人かどうかで、発表会に参加する人しない人が決まっていて、ひいては楽器が上手くなれる人とそうでない人が決まっていくような気がします。
自分の演奏する曲がひとと違っていたり、楽器が違っていることを気にする生徒さんもいらっしゃいます。
自分だけがひとと違った曲を弾いたり、ひとと違う楽器を弾くのって、そんなに恥ずかしいですか?
いいじゃないですか、みんな自分の好きな曲を弾けば。
他人の影響を受けるのであれば、自分にプラスになるように受けるべきですよ。
「あの人が頑張ってるから、自分も負けないように」と、他人から刺激を受けて、勇気を貰うというのが理想的ではないでしょうか。
本来、発表会ってそういうものであるべきですよね。
一年間の鍛錬の成果を、みんなで “見せ合いっこ” です。
最後にもうひとつ、発表会にまつわる法則をお話します。
過去の発表会には毎年参加していた生徒さんが、ある時何かの理由で参加しなかった場合、その翌年は高い確率で参加しなくなってしまう、という法則です。
特にスケジュール上の理由とかではなく、「気がのらない」などのメンタル的な理由の場合です。
これは恐らく、発表会に参加するという習慣が切れてしまったことが原因だと思います。
人はそれまで継続してきたことを一度やらなくなると、もう一度元に戻すにはとても強い意志が必要になります。(私が人生から学んだことです)
一度「今回の発表会はやめておこう」という選択をしてしまうと、その後、無意識のうちに徐々にモチベーションは下がって行き、いつの間にか簡単には戻せなくなる所まで行ってしまうのです。
発表会って、参加しない方が“楽”ですよね?
一度楽な方を選んでしまうと、その“楽”な方に心身が慣れてしまい、以前と同じ負荷が以前より強く感じるようになってしまうというわけです。
なので、「発表会には毎回必ず参加する」という意志を持つことが大切なのだと思います。
元阪神タイガースの金本知憲さんは現役時代、「一度怪我で試合を休むと、次はそれより軽い怪我でも休むようになってしまう。だからどんな酷い怪我でも試合には出ると決めている」と話しておられました。(1492連続試合フルイニング出場は世界記録)
当教室では、毎年秋に発表会(ギターとウクレレの演奏会)を開いているのですが、生徒さんにはおよそ2ヶ月前頃から案内しています。
参加資格は、初心者の方は入会から1年以上が経った方、あるいは必要最低限のレベルでの演奏が出来ると判断した方のみとしています。
なので、私が参加を呼びかけた生徒さんは、参加資格の条件を満たしているということです。
「どんな曲を選べばいいか分からない」「自分に何が出来るか分からない」という人でも、参加の意思を見せて下さった方には、それまでに練習してきた練習曲などの中から最適なものを演奏会用にアレンジして、様になった演奏が出来るように指導しますので、ご安心下さい。
参加しなかった人は、翌年も参加しない確率が高いわけですが、一応念のため案内用紙だけは配って参加を呼びかけるようにしています。
3回くらいまでは案内しますが、それでも参加されない方へは、その後は案内もしないようにしています。
もしこのページを読んで意識が変わったという人がいたら、是非その旨をお伝えください。
最後に、誤解のないよう念のためお話しておきますが、当教室の発表会(ギターとウクレレの演奏会)へ参加するか否かは、生徒さんの自由です。
ご自身の意思で参加されない方がいても、何も問題はありません。
参加する生徒さんと参加しない生徒さんとで、指導の仕方や接し方が変わることは決してありません。
西沢恭輔