コラム

現在Talkingまたは他教室に通われている生徒さんや、音楽教室に興味をお持ちの皆さんに向けて、自分がこれまでの講師生活において、経験したことや感じたこと、楽器指導に対する考え方など、どうでもよい話から少し固い話までざっくばらんに自分の思考を綴っていきます。

習いに行くか、独学か

楽器を始める時(始めてみようかなと思った時)、一番最初に迫られる選択が「教室に習いに行くか、それとも独学で始めるか」だと思います。

私がギターを始めた時はまだ高校生でしたが、独学で練習していました。近所にギター教室がなかったせいもありますが、すぐに教室(スクール)を探し始めるということはなく、まずは自分の力で出来るところまでやってみて、独りで上達することに限界を感じたら教室に行って先生に習おうと、そう思っていました。私が初心者の頃はそう思っていたので、この仕事を始めたばかりの頃は、きっと教室に習いに来る人達は、独学で壁を感じた人達が殆どなのだろうと思っていました。

ところが、いろんな生徒さんに指導し始めると、その大半の生徒さんは独学で練習した経験がなく、むしろ一度もギターを触ったことすらないという人が半分以上で、独学でギター弾いていた人は全体の3割り程度しかいないということが分かったのです。

楽器を始めようとした時、きちんと正しい弾き方を身に付けるため教室(先生)に習いに行くという選択は、今思えば正しいことだと思うのですが、「独学で練習するということなど、まるで考えもしなかった」という人がいることに、当時の私は凄く驚きました。決してそれが悪いわけではないのですが、「少しくらいは自分でやってみようと思わないのかな?」と首を傾げたこともありました。

以前どこかで見かけたインターネットのあるサイトの掲示板で、同じことが議論されていたことがありました。「ギターを始めるなら教室(先生)に習いに行くべきか?、それとも独学でも出来るものなのか?」という内容でした。「どうせ練習するなら正しい弾き方を習った方がいい」「気軽に習える教室があるなら習いたいと思う」という、習うことに賛成派の意見もあれば、「自分の弾き方にあれこれケチを付けられそうで嫌だ」「教則本やDVDがあれば独学で十分上達していけると思う」など、独学に賛成派の意見もありました。

私がかつて初心者の頃に考えていたのと同じように「出来るなら自分でやってみて、無理だと感じたら習いに行くのがいいのでは」という意見もやはりありました。いろんな意見があって面白いと思うのですが、ひとつ印象に残っている意見にこんなのがありました。「楽器を上手くなるには、練習を継続することが絶対的なことだが、社会人の自分にとって独りで練習を継続し、モチベーションを維持するのはホントに大変。教室に習いに行けば嫌でも練習せざるを得なくなる。教室に通うのは練習を継続するための動機」というものでした。

確かに一理ある考え方だと思います。上手くなるには正しい弾き方(練習法)を覚える必要があるわけですが、それを教えてくれるのが教室(先生)です。そしてその習った弾き方(練習法)で練習するわけです。本来の目的は「楽器が上手くなる。弾けるようになる。」ことだったはずです。しかし実際に習い始めると、習ったことをしっかり練習しておかないと次のレッスンを受ける意味がなくなってしまうため、否が応でも練習せざるを得ない環境になっていき、「上手くなりたいから習いに行く」が「習いに行くために練習しなければ」と、いつの間にか目的と手段の順番が入れ代わってしまうのです。

教室に習いに行くということが、練習を継続するための理由付けになるということは確かにあると思います。私がこれまで大勢の人を指導してきて思うのは、かつて私がしたように、数年独学で練習を積み、限界を感じたら教室へ習いに行くというのが、必ずしもいいとは言えないということです。

独学で練習している人は、間違った弾き方や悪いフォームで練習していて、それが癖になって、改善を試みても正しいフォームがなかなか身に付かないということがよくあります。独学ではなく、最初の基礎から教室で正しい弾き方(練習法)を学ぶことは、高い演奏力を目指す人にとっては、数年間独学で練習してから教室に習いに行くより断然有利です。

私の指導の大きな特長は、常に先のことを考えた弾き方(練習法)を覚えてもらうことです。これはどういうことかと言うと、ギターというのは初歩的な演奏であれば、多少間違った弾き方や悪いフォームでも弾けて(ごまかせて)しまいますが、難易度の高い上級的な演奏は、正しい弾き方が身に付いていなければ正確に弾くことが出来ません。いずれは難易度の高い演奏に挑戦しマスターすることを想定して、初歩的な演奏を練習するということなのです。

私は生徒さんに基礎を教える時、常にその生徒さんの10年後を考えて指導しています。「今はその弾き方でも弾けますが、正しい弾き方を覚えないと先で行き詰まりますよ」というのが私の口癖です。

先に基礎を身に付けておかないと、後々上達出来なくなったり、近い将来ぶちあたるであろう壁があったり、生徒さんがまだ知らないことを、先に経験している先生は知っているんです。自分は運良くハマらなかった落とし穴でも、多くの生徒さんがハマってしまう落とし穴ももちろんあります。この、先に潜んでいる落とし穴や、今はまだ気づいていないミスを教えてくれるのが先生なんです。

これこそが教室で指導を受ける最大のメリットだと私は思います。私もかつて素晴らしい先生から指導を受けていた経験がありますが、毎回のレッスンの中に、新たな発見や謎を解くヒントがあって、自分が気づいていない間違いに気づかせてくれたりと、とても感動したり関心させられました。

ですが世の中には、一流のプロ演奏者と言われる人の中にも、教室や音大などに通った経験などなく、一度も先生から指導を受けた経験がないという人がおられるのも事実です。独学で楽器がマスター出来るかどうかと言われれば、もちろん答えはYesです。不可能ではないのでしょうが、お金を払って指導を受けることには、それなりの価値はあるものだと私は思います。